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夢を見ているみたいにぼんやりと、描きあげたばかりの絵をじっと見て兄は云う、
「僕はね、綺麗な線が描きたいんだ。綺麗な絵、じゃなくて。」
お兄ちゃん、と呼んだ少女は眉を歪めて、
「綺麗って何……?……あのね、今日エリちゃんがいってたの。自分の顔が見られないのは自分が汚いからなんだって。それに耐えられないからなんだって。私って汚いのかな」
暫くの後、夢から覚めたみたいにふりかえって云う。
「大丈夫だよ、ユイ。人間はただの分子の塊さ。今はそういう形をとってるだけで、とってるように見えるだけで。
いつか綺麗な一本の線になって短くなって点になって、そうして消えていくんだよ。」
そう云って微笑んだ兄が綺麗、で、そう思った瞬間にそこに在ったのはただ一本の線だった。
**inspired By Abekoubou.