**忍跡社会人設定
久々のお部屋デートの日。膝の上に座らせた跡部の、独占を許された日。
後3センチ、唇が触れ合う。
ブブブブブ……
ヴァイブレーションが、テーブルの上の携帯を移動させてメールの受信を知らせる。
「景ちゃん……ちょっと待ってな」
以前、会社からの緊急メールを無視してしまった痛い記憶を掘り返す。
「……あぁ」
焦点の朧気になった跡部をそのままに、そそくさとテーブルの上へ手を伸ばした。
「あぁ、ユミ結婚するんやぁ……」
昔の彼女の結婚の知らせが自分に、年をとったことを思い知らせることを、俺は最近知った。
ふと口にでてしまった言葉に、女の名前を発すると、きまって不機嫌になる跡部を心配して見やる。
「景ちゃん……??!」
潤んだ瞳を上目遣いに、泣きそうな顔。
そこにいたのが不機嫌で強気な跡部じゃなくて、不安になって近づいて、声をかける。
「……景「したいのか…お前も、」
いい大人になった跡部が、幼児の様に泣きじゃくる姿は、何だか愛しい。
「何ゆーて……」
困惑する俺に、涙を拭って向き直る跡部。
「俺はお前を愛してる」
「うん……?」
何なん急に、といいかけた俺を制して跡部はつづける。
「けど……、どんなに愛してるっつったって、結婚……なんて」
そこまでいって口を閉ざしてしまった跡部を見て、話に合点がいって込み上げてくる笑いを抑え切れなくなる俺。
「なあ、……なんで結婚なんちゅー儀式が残ってるんかわかる?」
黙ったままの跡部に続ける。
「俺は……愛が欲しいからやと思う。傍にずっとおる、て、義務っちゅー形でもえぇから言って欲しいからやと思う。……俺も景ちゃんとずっと一緒におりたいけど、たとえ結婚したって離婚してまうかもしれへんし、結婚せぇへんかってどっちかが死ぬまで一緒におれるかもしれへん……せやから」大きな瞳をいっぱいに開いて聴く跡部を一度見やる。
「ずっと一緒におりたいって、跡部の口から聴きたい。聴けたら、結婚なんて要らんわ」
なーんてな、と続けた唇に何かが触れた。
それが跡部のそれと気付くまでに一秒。
「バーカ。俺様を死ぬまで飽きさせなかったらな」
そういった跡部のいつもの妖艶な笑みに釘付けにさせられるまでにもう数秒。
ふっと笑ってしまった俺は、でも会社の後継ぎはいるからなぁ……と真剣に考え込んでしまった跡部を尻目にメールの返信を考える。
―――おめでとう……幸せになりや
素直に浮かんだメッセージをそう打ち込んで、腕のなかの跡部を抱き締めた。
fin.
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